2020年7月11日土曜日

『シンポ教授の生活とミステリー』新保博久

NEW !

光文社文庫
2020年7月発売




★★★  楢喜八によるカバーイラストの新保は
       「魔太郎がくる!!」のようで本質をよく捉えている




『推理百貨店』以後の、雑誌等に書いた文章の類からセレクトして文庫本一冊に纏めたもの。 編集部による帯や裏カバー惹句には〈ガイドブック〉と書いているが、実質はミステリ雑談  エッセイ集。


 

新保がなぜ東京を引き払い故郷の京都へ転居したのか、その辺の事情はこの本を読めばわかる。少年時代どういう読書体験を経て、どういう経緯で早大に入りワセダミステリクラブに在籍することになり、どういう過程でミステリ業界の人となったかも。かつては江戸川乱歩関連仕事で いつもセットに見られる事が多かった山前譲についての記載は殆どない。例えばオグシオほどに互いをウンザリ思っている訳ではないだろうが、そんなものだろうか。


 

陰気で人づきあいが出来ないと自己評価しているが、そんな新保には読み手を語り口で笑わせ ようとするのは、中相作みたいな笑いのプロではないのだからあまり向いてないと思う。   多くの部分の初出に当たる雑誌『本の雑誌』の性格に合わせて書いたのだろうけど、      オヤジ・ギャグみたいな諧謔が毎回スベっているように見えて、むしろ本書のどこかで本人が 書いていたように大真面目な感じで粛々と言を進めていって変なギャップでクスリと笑わす、 そんな持って行き方のほうが合っている。


 

〝 重箱の隅の老人 〟を名乗るだけあって〈ミステリー〉という言い方は超常現象のジャンルに使うべきで探偵小説には〈ミステリ〉のほうを使うべきだとか、いろいろ細かい。そのわりに 本書のタイトルは〈ミステリ〉だとゴロが悪いといって〈ミステリー〉にしていたり、意地悪な誰かにつっこまれないといいけど。長編・短編の〈編〉という字は〈篇〉のほうに拘っているという、この考えは私も賛成。漢字の使い方とか、この場合はこっちでいいのか・・・とか   毎回考えてしまうことは私にもある。


 

戦前から戦後の高度成長期を迎えるまで、探偵作家は江戸川乱歩クラスの収入がないと     専業として豊かに生きていけなくて、収入の為に少年ものや時代ものを書いて凌がなければ  ならなかった。日本だと海外と比べて市場が狭すぎるのか一発当てた位ではリッチになれない。そんなミステリ業界で評論家として生活するのはシンドイ事なのだろう。新保には妻や子供が いるのか知らないが、八万冊もの書物をマンションやコンテナを借りて保管しながら、    よく長年生活してこられたもんだ。


 

京都の伯母と同居している現在、もしかしたら新保は寂しい毎日を送っているのかもしれないが他人に馴染めず本の世界にばかり閉じこもる人の典型で、今以上にSNSボケが進まぬ事を願っている。仕事の出来る人、変な依存症にならずに生活している人、いわゆるリア充な人はSNS中毒になったりはしない。たとえ発信をしても自分の仕事の告知等をつぶやく程度で、      他人の揚げ足取りや罵り合いといった見苦しい真似はしない。




(銀) 光文社編集部に相変わらず言葉狩り好きな人間がいるのか、新保はわざわざ            〈土人〉を〈人土〉とひっくり返して書き、その後で断り書きをするという苦笑するようなワザを使っているが、そのわりにこの編集部は〈推理小説〉の〈推〉という字を〈椎〉とか〈誰〉と誤植している。最初は新保のネタかと思ったけどこれはただのミスのよう。 

やるべき事とやらなくていい事の区別がちっともついていない光文社の社員。