ピラールプレス
2012年3月24日発売
★★★★★ 貴方の人生はまだ終わりじゃない、
よみがえれヨコジュン
『近代日本奇想小説史〈明治篇〉』は重い一冊だった。重量・価格のことだけではない。彼一流のユーモラスさだけでなく、「もう自分には時間がない」という或る種の諦観が行間の端々から滲み出ていたからである(近年、ヨコジュンは精神的な病いを患っていた)。なんというか壮大な遺言の序章みたいに思えて、読み終えたあとレビューを書く気になれなかったというのがその時の私の心境であった。
だが本書はもっとカジュアルに手に取れる。そう、『日本SFこてん古典』のように。『入門篇』とは言ってもクオリティーはいつもどおり。昭和40年代から最近まで執筆した雑誌・月報原稿を凝縮、奇想小説ならばSFでも探偵小説でもなんでもあり。図版もたっぷり、巻末には本書各章の解題まで付けて、楽しい本に仕上がった。
戦後の児童向け仙花紙本の章は番外篇というには目玉すぎる内容だし、古書収集家としての思いを綴った「幕間」における氏の姿勢を私は全面的に支持する。自分の持っている古書の市場価格を吊り上げたいだけの喜国雅彦人脈や、古書即売会や日本の古本屋で見つけたレア本をヤフオクで転売しまくっている森英俊のように、古書を株かなんぞと履き違えている輩とは月とスッポンな、ヨコジュンの本への誠実さに読者は今までずっと共感してきた筈だ。
幸いなことに『明治篇』刊行時のイベントへ姿を見せたぐらいなので、ヨコジュンの体調も復調の兆しありと思いたい。ファンは皆『大正〜昭和篇』を早く読みたくて仕方ないのだ。こうなったらいつまでも気長に刊行を待つ。あせらずのんびりで構わない、体調と上手くつきあいながら作業を進めていってくれればいい。
(銀) 2019年1月4日、自宅にて心不全のため横田順彌逝去。嗚呼・・・。
とっとといなくなってほしい奴らほど、いつまでものうのうとこの世を這い回り、
いてもらわなければならないヨコジュンがこんなに早く鬼籍に入るとは。