『近代日本奇想小説史 明治篇』は重い一冊だった。重量・価格のことだけではない。彼一流のユーモラスさは確かにあるのだが、同時に「自分にはもう時間がない」というある種の諦観が行間の端々から滲み出ていたからである(近年、ヨコジュンは精神的な病いを患っていた)。なんというか彼の壮大な遺言の序章のように思えて、気軽に読後レビューを書く気にはなれなかったというのが私の正直な気持だった。
だが本書はもっとカジュアルに手に取れる。そう、『日本SFこてん古典』のように。『入門篇』とは言ってもクオリティーはいつもどおり。昭和40年代から最近まで執筆した雑誌・月報原稿を凝縮、奇想小説ならSFでも探偵小説でもなんでもあり。図版もたっぷり、巻末には本書各章の解題まで付けた楽しい本になった。
戦後児童向仙花紙本の章は番外篇というには目玉すぎる内容だし、古書収集家としての想いを綴った「幕間」における氏の姿勢を全面的に私は支持する。自分の持っている古書の市場価格を吊り上げたいだけの喜国雅彦周辺や、ヤフオクでかつては古書を買占め今では即売会や日本の古本屋で見つけたレア本を転売しまくっている森英俊のような、古書を株かなんぞと履き違えている輩とは月とスッポンなヨコジュンの本への誠実さに、今まで読者はずっと共感してきた筈だ。
幸いな事に『明治篇』刊行時のイベントに姿を見せた位なので、ヨコジュンの体調も復調の兆しありと思いたい。ファンは皆、『大正〜昭和篇』を早く読みたくて仕方ないのだ。こうなったら何時までも気長に刊行を待つ。あせらずのんびりで構わない、体調と上手くつきあいながら作業を進めていってくれればいい。
(銀) 2019年1月4日、自宅にて心不全のため横田順彌逝去。嗚呼・・・。
とっとといなくなってほしい奴らほどいつまでものうのうとこの世を這い回り、 いてもらわなければならないヨコジュンがこんなに早く鬼籍に入るとは・・・。