出版芸術社
2009年11月発売
★★★★★ 「刺青殺人事件」「死神博士」はこうして生まれた
高木彬光の長女・高木晶子が『想い出大事箱』で語っているように、晩年の彬光は口述筆記にて『乱歩・正史・風太郎』なる随筆を遺すはずだったが、想いは叶わなかった。その遺志を引き継いだのが編者・山前譲そして出版芸術社の原田裕社長。本テーマに該当するも分散していた生前の彬光エッセイを四つの章に整理し、まとめて読めるようにしたのが本書。高木親子のこの二冊のエッセイ集は重要な戦後日本ミステリ裏面史でもある。
以下、各章に収録されたエッセイの初出を記す。
■ Ⅰ 産みの親・江戸川乱歩 ■
講談社版『江戸川乱歩全集』月報
『ぺてん師と空気男』初刊本・付録
春陽堂書店版『江戸川乱歩全集』月報
『推理小説研究』
雑誌『幻影城』
講談社版『大衆文学大系』月報
江戸川乱歩・旧角川文庫解説×6
■ Ⅱ 育ての親・横溝正史 ■
雑誌『宝石』
春陽堂書店版『日本探偵小説全集』月報
『日本探偵作家クラブ会報』
『横溝正史追憶集』
岩谷書店版『鬼火』
雑誌『別冊宝石』
■ Ⅲ 水魚の親 山田風太郎 ■
雑誌『宝石』
雑誌『信友』
雑誌『小説宝石』
山田風太郎・旧角川文庫『甲賀忍法帖』解説
雑誌『別冊新評』
講談社版『山田風太郎全集』月報×15
■ Ⅳ 推理小説裏ばなし ■
光文社版『高木彬光長篇推理小説全集』月報×17
風太郎への歯に衣着せぬ悪友ぶりも痛快だが、ダントツに面白いのがⅣの自伝。私生児という暗い青春、貧苦の中で追い詰められた彬光が占い師の啓示にて処女作「刺青殺人事件」を書き、遂に乱歩に認められるくだりはなんともドラマティック。またデビュー後の危機に少年ものの執筆を薦め、彬光に探偵作家の処世術を諭す正史の温容。
300頁あたりで彬光が怒りをぶちまけている作家「O」とは、大坪砂男の事なのだろう。いつも良い企画を立ててくれる出版芸術社。山前氏よ、今度は横溝正史の未刊随筆・座談集を発売してくれないか。
(銀) 彬光の著書は市場への供給がバッタリ途絶えたことがないぶん、本当の意味での全集はおろか、テーマ別にコンプリートした最新の選集も出ない。神津恭介ものを短篇長篇全て纏めたものぐらいあってもいいと思うのだが、昭和時代に神津ものの本がかなり出回ったため、今でも古書で入手することが困難ではないからか、彬光が厭った大坪砂男のような、作品数・著書とも少なくてマイナーな人のほうが現行本で読み易くなっているという皮肉。
相も変わらずドラマ・タイアップで2013年に光文社文庫から出た神津恭介もの四冊は、また言葉狩りされた粗悪テキストだった。論創社の〈少年小説コレクション〉で刊行される筈だった彬光のジュブナイルものも、いつの間にか話が立ち消えに。あの世の彬光から光文社と論創社の莫迦どもへ、怒りの天罰があらんことを。