2020年7月21日火曜日

『探偵小説の風景/トラフィック・コレクション』〈上〉〈下〉

2009年5月18日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

光文社文庫  ミステリー文学資料館(編)
2009年5月発売〈上〉 2009年9月発売〈下〉




★★★★   トラベル・ミステリーの原石とは
   




〝 当時の乗物 〟が作中に出てくる昭和初期短篇をコンパイルしており、
〈上〉の帯に「トラベル・ミステリーの原石」と編集部は書いているが、
すべてが旅行ものと呼ぶ程の内容ではない。
Amazon.co.jpのカスタマー・レビューへ投稿したのは〈上〉だけだが、 
このBlogでは〈下〉の収録作品も紹介しておく。




〈上〉                   〈下〉

■「途上の犯人」 濱尾四郎         「省線電車の狙撃手」 海野十三   

■「急行十三時間」 甲賀三郎        □「空を飛ぶパラソル」 夢野久作

■「颱風圏」 曾我明            □「百日紅」 牧逸馬

■「彼の失敗」 井田敏行          □「白い手」 中野圭介(松本恵子)

■「髭」 佐々木味津三           □「隼のお正月」 久山秀子

■「少年と一万円」 山本禾太郎       □「豆菊」 角田喜久雄

■「視線」 本田緒生            □「セントルイス・ブルース」 平塚白銀

■「目撃者」 戸田巽            □「綺譚六三四一」 光石介太郎

■「乗合自動車」 川田功          □「白妖」 大阪圭吉

■「秘められたる挿話」 松本泰       □「踊る影絵」 大倉燁子

■「青バスの女」 辰野九紫         □「砂丘」 水谷準

■「その暴風雨」 城昌幸          □「若鮎丸殺人事件」 マコ・鬼一

■「父を失う話」 渡辺温          □「新聞紙の包」 小酒井不木

■「酒壜の中の手記」 水谷準        □「鑑定料」 城昌幸

■「首吊舟」 横溝正史



書名からはさして目新しさを感じないかもしれないが、そこは山前譲の編集で、戦前の探偵小説を好きな人なら充分楽しめる。




そろそろミステリー文学資料館の文庫も「これは!」という企画を切望。例えば挿絵中心の画家別探偵小説アンソロジーとか、新しい読者層を獲得できるのではないか?名前を挙げると、吉田貫三郎・林唯一・竹中英太郎・嶺田弘・岩田専太郎等々、他にも画家の候補はいるから是非検討して欲しい。

 

 

しかし最近の文庫の傾向ではあるが、活字のポイントが大きいですなぁ。
年配の読者への配慮だろうけれど行間が無くて私など逆に目が疲れる。
そんなところからも初出時の挿絵があると嬉しい。




(銀) 曾我明と井田敏行のふたりは山前譲解説でもどういう人なのか不明と書いてある。持ち込み投稿だったのだろうか?



このレビューで「挿絵中心の画家別アンソロジーを出したらどうか」と書いた。しかし光文社をはじめ、大手の出版社が出す探偵小説文庫本では、この後暫くの間、初出挿絵を収録することも無くなる。ところが2016年に皓星社が、文庫ではなくソフトカバーで私の提案したような本=「挿絵叢書」を出した。それが刺激となったのかどうかは知らねど、元号が令和に変わり、初出時の挿絵を収録する動きが創元推理文庫あたりから再び出てきている。