2009年5月19日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
2005年8月発売
★★★★ 乱歩への嫉妬を秘めて
後半の随筆集目当てで購入。感情的・ヒステリックというか、ちょっと論理的でない物言いが多い。国枝本人によるとバセドー病による心の不安定さがそうさせているらしい。病のせいかどうかはともかく、こういう人は時々周りにいるけれど。
そして江戸川乱歩への棘のある発言が続く。その原因の元は、ラストでのどんでんがえしを狙った国枝の好短編「広東葱」よりも後発の乱歩「二銭銅貨」の方が余りにも評価が高かったため、心中穏やかではなかったんじゃないかと、解説で編者・末國善己は推理している。国枝の気持はわかるがこれは逆恨みじゃなかろうか。間に立った小酒井不木の苦労が偲ばれる。この辺の人間模様は『子不語の夢』に詳しい。
ただ、早い時期に横溝正史を評価している点も目についた。病における鬱屈を創作への力に変えられればよかったのだがね。伝奇小説のあの良い味を活かして、探偵ものでも長篇いや中篇でも何か一本そこそこ良いものを遺していれば・・・という気がしないでもなかった。本書は限定1,000部発行。
(銀) 上記のレビューを書いた当時、国枝史郎の探偵小説もしくはカテゴリー的にそれに近いものを収録した現行本で主だったものは次の五冊だった。
● 本 書
● 未知谷『国枝史郎伝奇全集』第一巻(長篇「沙漠の古都」収録)
● 未知谷『国枝史郎伝奇全集』補巻(長篇「東亞の謎」収録)
● 光文社文庫『幻の探偵雑誌 6 「新趣味」傑作選』(長篇「沙漠の古都」収録)
● 学研M文庫『伝奇ノ匣〈1〉国枝史郎ベスト・セレクション』
(戯曲集「レモンの花の咲く丘へ」収録)
ところが、2013年にはなんと海外怪奇作品の国枝翻訳アンソロジー「恐怖街」(古書でも入手 超困難のブツだった)を含む『国枝史郎伝奇風俗/怪奇小説集成』が、更には今までその存在を聞いたこともなかった創作長篇ミステリ『犯罪列車』までもリリースされるという快挙が続いたのである。
『沙漠の古都』は2018年に河出書房新社からも単行本が出ている。