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2013年10月発売
★★★★ 澁澤のペダンティック重視論が
その後の探偵作家再評価に長く影を落とした
この本、発売された直後に書店で立ち読みして「ウーン、まあ要らんかなあ」と一度はパスしたものの、その後なんとなく気にはなっていて。品切れになって入手できなくなるのも面倒だし、発売から7年も経って遂に落手。
昭和3年東京生まれの澁澤龍彦が生前、雑誌・新聞・単行本の解説や月報に執筆したミステリ論をアーカイヴ、一番古いのは昭和34年のもの。私はそこまで澁澤に詳しくないので、ミステリに関する彼の文章が果してこれで全てなのか掌握していない(たぶん他にもあるとは思うが)。俎上に上がっている主だった作家はポオ/江戸川乱歩/小栗虫太郎/夢野久作/久生十蘭/橘外男/大坪砂男/中井英夫/日影丈吉 etc。このメンツを見て瞭然、澁澤はいわゆる論理性を重視しただけの本格探偵小説には全く興味を示さない。
「謎解きの本格推理というのがあまり好きではなく、どちらかといえば変格(以下略)」
「名探偵とトリック至上主義への反撥」
「スタイル偏重主義者で(中略)スタイルさえ面白ければ、
その他の欠点は大目に見てもよい」
「推理小説はペダンティックでなければならない」
このように、澁澤の偏狭な嗜好がまるで譫言のように文中何度も繰り返される。
振り返ってみれば昭和40年代、桃源社がブチ上げた「大ロマンの復活」というテーマの下にリバイバル復刻された作家達や、講談社が没後初の全集を仕掛けた江戸川乱歩といった一連の潮流は明らかに澁澤趣味と歩調を合わせている。それが事実、澁澤の影響あってのことかどうかはしっかり検証する必要があるけれども、もし仮にそうだとしたら、戦前はあれだけ大物だったのに昭和40年代以降流通がどんどん少なくなっていった甲賀三郎・大下宇陀児あたりは澁澤趣味に拾ってもらえぬ一種の脱落者とされた人達と言えよう。
木々高太郎と小栗虫太郎をセットで収録した本の解説を澁澤が担当したので、本書では木々にも触れられてはいるが、虫太郎への〝熱〟に比べると木々は実にあっさり片づけられている気がする。横溝正史や高木彬光よりも澁澤にとっては大坪砂男のほうが重要な存在なのだ。
澁澤の言わんとする事はわかるけれど、広く探偵小説を好む者からすると、これはある一面だけを捉えた見方。実際私にとって久生十蘭は『新青年』作家とは呼んでもかまわないが、決して探偵作家だとは考えていない。異色なパートとして『日本読書新聞』に連載され、いつもの澁澤だったら触れないような作家(飛鳥高/ニコラス・ブレイク/久野啓二ほか)についてコメントしている「推理小説月旦」(このタイトルは本書の書名にも採用)の章が一番興味を引いた。この連載、もう少し長く読んでみたかった。
(銀) 私は澁澤龍彦に特別興味を抱いてはいない。だから内容だけの評価でいえば、もしかしたら★3つにしたかもしれない。
ちなみに本書は、送料無料かつ宅配便扱いで届けてくれるというので版元の深夜叢書社から直接通販で購入した。届いた本書を開くと装幀者のクレジットに高林昭太とある。あれ、この人は通販購入時に受け付けてくださった方と同じ名だな。すると高林氏は深夜叢書社の人か。出版社の人が装幀もこなしているという、この手作り感になんだか私は好感を覚えたので★4つとした。