2020年6月15日月曜日

『8・1・3の謎』モーリス・ルブラン/南洋一郎(訳)

2010年1月2日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

ポプラ文庫クラシック 「怪盗ルパン全集シリーズ」
2009年12月発売



★★★   児童ものやパスティーシュよりも極上の正典を
       



挿絵の味わい深さがなんとも良し。ポプラ社の、江戸川乱歩に続く今回のルパン・シリーズ文庫化には何も文句は無い。しかし南洋一郎のこのシリーズをはじめ、ルパンものの多くの児童書がかなりはしょって訳されてしまっていることは知っていて欲しい(偕成社全集は例外)。勿論、元は大人向けの小説でありアルセーヌ・ルパンは情熱的、愛国者、時には冷酷、二股愛もあれば血を流す場合だってある。この名作『8・1・3』にしろ、オリジナルは二冊分にもわたる大作。正典が最もスリリングで面白いのは言うまでもない。



平岡敦の翻訳は評判が良かったのに、ハヤカワ文庫がルパン全集をたった数巻で放り出したのは情けない。詳しい書誌解説や美しいレオ・フォンタンの表紙絵や『ジュ・セ・トゥ』紙等の初出誌挿絵などを付けて、「巨万の富」あたりの未だ読めないレアものも収めたひとりの翻訳者による正典コンプリート全集文庫がどうしても読みたい。

 

 

ホームズが行くところまで行きついた感があるので、そろそろ日本でも定本となりうるルパン全集が出てほしい。どこか良心的な出版社が発売してくれないか?今回のシリーズにも巻末にルパンについての簡単なエッセイがある。本編と殆ど関係のない語り手の回想話は読んでも蛇足なのでしかるべき人に語ってもらうか、ちゃんとした解説の方がいい。

 

 

(銀) 平成という元号も終わってしまったが、いまだに日本では大人向けの完訳ルパン全集が刊行されそうな気配は無い。それにしてもルパン/ルブランの国内ファンクラブ的な「ルパン同好会」というグループがあるが、いまだにHPを作り門戸を開くでもなく、彼らとのコンタクトの方法は非常にわかりにくいままだ。人員がかなり少ないからかもしれないが、なぜ閉鎖的なスタイルを続けているのだろう?