成人向け劇画雑誌『コミック&コミック』に掲載。「くノ一捕物帖―恋縄緋鳥―」全話が単行本に入ったのはメディアファクトリーによるSHOTARO WORLD版全二巻が初めてだそう。過去の徳間書店版そして大都社版コミックスではいずれもSHOTARO WORLD版でいうところの〈1〉収録分エピソードしか読めなかった。だから本日書影をupしたSHOTARO WORLD版コミックス〈2〉は貴重な一冊なのだ。
ミレーヌ・ホフマン(「009ノ1」)のモダンでコケティッシュな柔らかさとは対照的に、どこか哀しく暗い影を背負っているヒロイン・緋鳥。かつては闇の集団・卍党の〝くノ一〟だったが、岡っ引・蛇縄参次に引き取られ表向き普通の町娘として暮らしている。蛇縄参次の上役にあたり自分の命の恩人でもある若き同心・旗野三四郎は心に秘めた思い人。江戸の町に妖しの風が吹くと美しい緋鳥の肌が舞う一話完結型ストーリー。
サンプルとしてエピソードをひとつ紹介。
ある理由により蛇縄参次を人質に取られてしまった緋鳥。退屈に飽き飽きしている金満家は緋鳥の身体から櫛や簪といった武器になりそうなものを全て剝ぎ取り、声さえも立てられぬ状態で裸のまま十重二十重に密室拘束した上、タイムリミットを決め一つの賭けを提案した。つまり期限までに緋鳥が自力で密室を脱出できなければ参次の命は無い、というもの。あらゆる〝くノ一〟のテクニックを封じられた緋鳥はこの拘束からどうやって抜け出すのか・・・。
復讐鬼/狐憑き/妖魔一族/色狂い刺青師/島抜け/陰茎切断魔・・・意外と近そうに見えても子供向けに実写化された「変身忍者嵐」とは手触りが異なる。「イナズマン」でも描かれていた題材で、満月の夜になると正体を現す人狼というのは石森の手癖、あるいは好きなパターンか?裏切り者である緋鳥に死を与えるべく例の卍党が殺し屋を送り込むエピソードも描かれており、「タイガーマスク」(原作:梶原一騎/作画:辻なおき)アニメ版での伊達直人対虎の穴みたく最後の最後には卍党一味と雌雄を決するクライマックスへ向かわなかったのが惜しくもある。(残念ながら卍党の頭領が姿を見せることはない)
「くノ一捕物帖―恋縄緋鳥―」は一度連載が終わって一ヶ月後に続篇「新くノ一捕物帖―大江戸緋鳥808-」が始まるのだが、緋鳥の境遇にあまりにも悲惨な出来事が起こり(ここでは伏せておく)、以後彼女は吉原の廊名主の家に身を寄せつつ活躍する。出来としては「くノ一捕物帖―恋縄緋鳥―」のほうが良く思えるし、どうせ緋鳥の復讐を描くのならば余計に巨悪である卍党と戦わせ「くノ一捕物帖―恋縄緋鳥―」のタイトルのまま連載を続けていれば・・・と妄想逞しくする私であった。
(銀) 巻末に作品解説があったり、また装幀面からしてもSHOTARO WORLDはうまくいっていたのに、又ここでも角川系列の出版社メディアファクトリーは要らん改変をしていたようだ。曰く、
「原作の世界を尊重し、作者の了解を得た上で、編集部の責任において一部を改めるにとどめました。 」
だと。どうせいつもの奇形者だかアイヌだかの表現で難癖を付けたのだろうが、本作の中で改変箇所を突き止める事ができていないので大きな減点はせず。『新くノ一捕物帖―大江戸緋鳥808-』の初刊にあたる大都社版コミックスでは〝非人〟〝乞食〟〝白痴〟〝気狂い〟といった言葉が自然に使われていた。大昔の人間が普通に口にしていた言葉をいちいち改竄したのでは、小説だろうと漫画だろうと時代物のリアルな表現は無いものになってしまう。迷惑極まりない言い掛かりで作品を汚す連中は社会の害でしかない。