2019年11月29日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
論創海外ミステリ 第240巻 横井司(編)
2019年11月発売
★★★ 〈論創海外ミステリ〉内に新しいシリーズ
これまでも保篠龍緒(訳)『名探偵ルパン』など〈論創ミステリ叢書〉寄りな内容の海外作品を小出しにしてきた論創社だが、〈論創海外ミステリ〉が内包するシリーズとして『新青年』
~ 『宝石』世代の翻訳者が手掛けたクラシックな旧訳を定期的に復刻するつもりらしい。
本書の柱である翻訳者は妹尾アキ夫。彼ならば長篇短篇を問わず海外作家翻訳のタマはたっぷりあるから、短篇集にするのなら対象を一作家一短篇にして全部違う作家を採録したほうが妹尾の腕前がよくわかったのに。
(例えば『怪樹の腕』では、アーチー・ビンズ/オーガスト・ダーレス/H・トンプソン・リッチ/C・フランクリン・ミラー/ラルフ・ミルン・ファーリーという具合に、多彩な海外作品の妹尾翻訳が収められていた)
今回翻訳の対象となったのはビーストンとオーモニア。
△ L.J.ビーストン
御存知ラストにおけるどんでん返しの妙に優れた作家。戦前はかなりの人気を誇ったビーストンも新訳し直すという話を一向に聞きませんな。今だったらビーストンよりルヴェルのほうが評価が高いかも。(創元推理文庫で『夜鳥』が復刊された訳だし)
-収録作-
「ヴォルツリオの審問」
「東方の宝」 (*)
「人間豹」 (*)
江戸川乱歩の同名作の如き獣人は出てこない。
「約束の刻限」 (*)
「敵」 (*)
「パイプ」 (*)
「犯罪の氷の道」 (*)
本作のクライマックスとよく似た演出を初期「ゴルゴ13」のあるエピソードで読んだ事がある。もしかしてゴルゴの脚本家もビーストンを読んでいた?
「赤い窓掛」 (*)
こちらはタイトルでなく、ある演出をまるっと乱歩にパクられている。
△ ステイシー・オーモニア
人間味がじっくり書けており、大下宇陀児の短篇を好む人なら向いていそうなものがある。
-収録作-
「犯罪の偶発性」 (#)
「オピンコットが自分を発見した話」(#)
「暗い廊下」 (#)
「プレースガードル嬢」 (#)
「撓ゆまぬ母」 (#)
「墜落」 (#)
「至妙の殺人」 (#)
「昔やいづこ」 (#)
* マークは博文館『世界探偵小説全集 19 ビーストン集』(昭和4年)もしくは
創土社『ビーストン傑作集』(昭和45年)のいずれかに収録
# マークは春陽堂版『探偵小説全集 14 ランドン/オーモニア集』(昭和4年)に収録
(私の手元にある同全集の『ランドン/オーモニア集』と『大下宇陀児集』は二冊の本が
セットで函に入っている。当時から彼らは近いものがあると思われていたのだろうか)
古書の収集歴が長い人なら持っているかもしれない上記の三冊に、ビーストン「ヴォルツリオの審問」を除くすべての作品は載っているので、本書が必要かどうか迷っている人は参考まで。
ビーストンとオーモニアを中途半端にセレクトしたせいで、必ずしもこの二人のベスト・セレクションになってる気がしない。横井司の巻末解説も〈論創海外ミステリ〉の各巻平均ページ数のしばりがあるからかもしれないが、あまり濃くなくて残念。それにこの本、公式発売日の何日も前からヤフオクに出品されてたぞ。論創社はいつまでたっても新刊本をフェアに一斉発売とするつもりはないようだ。
(銀) この頃から論創社は海外ものだけでなく日本の探偵作家でも論創ミステリ叢書の他に、川野京輔『推理SFドラマの六十年』中島河太郎『中島河太郎著作集』飛鳥高『細い赤い糸』など評論・小説問わず濫造濫発するようになってしまった。
『中島河太郎著作集』(上巻)の収録内容を見ても何故いま『日本推理小説辞典』を再発せにゃならんのか理解に苦しむとはいえ、なぜ私は濫造濫発とまで思ったか?論創社のおかしくなってゆくその過程は近いうちに詳しく書く。