2019年11月からBS12でホント久しぶりに前シリーズ『ムー』の再放送が始まったんで、懐かしく毎週観ている人も多かろう。のちにこのノリをなんとか真似しようとしたドラマが数知れずあったが、どれもこれも『ムー』を超えられず。稀有な異端番組だったんですよ。同じチャンネル同じ時間帯の先行ドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』は今観ると主役の野暮ったさが古めかしく感じさせるけど、『ムー』にはそれが少ないのが良くてね。
このBOX-1は2ndシリーズ『ムー一族』の前半、第1~18話までを収録。特典ガイドブック「謎が謎よぶムー一族」は『ムー一族』全話の解説に加え、樹木希林・岸本加世子・近藤邦勝(演出家)のインタビューなどが掲載され、読みがいのある資料になっている。でも、どうせ観るなら1stシリーズの『ムー』から観ないとダメよ。
「禁猟区」「バイブレーション」がヒットしていた郷ひろみ(拓郎)は、樹木希林(金田さん)とのデュエット「林檎殺人事件」が『ザ・ベストテン』でも一位に。伊東四朗(安男)・由利徹(平さん)・左とん平(野口五郎)・伴淳三郎(徳さん)、この四大・笑芸人だけでなく旬のアイドル/名優/久世光彦らクセ者スタッフが揃っていて面白くない訳がない。本シリーズからは荒井注(住職)も参戦。私にとって樹木希林とは、内田裕也夫人や日本アカデミー賞女優である以上に〝
金田さん(カネタ、です)〟なのである。
1stシリーズ『ムー』の時に岸本加世子(カヨコ)が「北風よ」を歌っていた挿入歌ポジションは、『ムー一族』では拓郎の片想いの相手/里中マチコ役の桂木文「短篇小説」へ。日吉ミミ「世迷い言」、郷ひろみ「Hell or Heaven」を観たい人は BOX-2 でね。今シリーズも生放送の回あり、『飛べ!孫悟空』(こちらもDVD化並びに再放送を強力に希望)と同じパペットで作った郷ひろみ人形が出てきたり、特別ゲストがあったりで、『ムー』よりもバラエティ色が増した雰囲気。
細川俊之演じる二階堂とたこ八郎との立ち退かせ屋コンビも笑えるが、『ムー』の時の暗い過去がある渋い陶芸家・更科を演じていた細川も捨て難かった。それに徳さんや平さんが夜立ち寄る小料理屋の女将しのぶ(中島ゆたか)が今回はひろみ(石田ゆり)になっていたり、設定が『ムー』の時とは若干変更されている。五十嵐めぐみ(桃子)は髪が長い『ムー』のほうが好みだった。うさぎやだけでなくドラマ全体の潤いの部分を一貫して渡辺美佐子(小春)が締めているのは立派。
このドラマの問題児/宇崎家の長男・健太郎(清水健太郎)だが、前シリーズのカノジョとは違う女=うさぎやの地主でお得意様でもある一条家の若妻(司美穂)と不倫して、再び宇崎家へ帰れなくなってしまう。放送が終わった数年後に清水健太郎は度重なる覚醒剤使用で逮捕。劇中ばかりか、どんだけ他人に迷惑かけてんだ?おかげで一時はこのドラマも二度と観れなくなりそうな危機は確かにあった。インストゥメンタル「しのび逢いのテーマ」は良い曲だけど、劇中でウジウジして家族に迷惑をかけっぱなしの健太郎には、拓郎ならずとも当時TVを観ていてブン殴りたくなったものです。
あまりに遊び心満載なため、「ホーム・ドラマとして楽しめない」などという頭のカタい人もいるだろう。この笑って泣けるテンションがたまらない人は小ネタの隅々までより楽しく、そうでない人はそれなりに楽しめばいいのである。(注/私の買ったこのDVD-BOXは、Disc-4 第10話のディスクの読みがよくないんだけど制作ミスか?)
(銀) 探偵小説とは全然関係ないドラマだが、樹木希林は竹中英太郎の子供たち=竹中労/紫とも親交が深かったし、久世光彦は作家として『一九三四年冬-乱歩』『悪い夢 ― 私の好きな作家たち』を書いているし、五十嵐めぐみは「江戸川乱歩の美女シリーズ」で文代を演じていたし、伊東四朗は人見廣介(「パノラマ島奇談」)や中村警部を、郷ひろみは久世の演出による『D坂殺人事件』で明智小五郎を・・・と、そんな例をいちいち挙げていたらキリがない。単に好きなドラマだし、このレビューも当Blogの中に救済しておきたかった。