2011年5月12日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
文春文庫
2011年5月発売
★★★★ 正史・乱歩ファンには一読の価値あり
類似した内容の『文壇よもやま話』も2010年に中公文庫から再発されており、このごろ昭和作家の回想が流行なのかしらん。これは93〜94年に単行本二冊に分けて出たインタビュー本で、内輪の人間しか知りえない興味深い裏話を大物作家の遺族が語る。その内13人の作家をセレクトして文庫化。
● 子母澤寛 ● 江戸川乱歩 ● 金子光晴 ● 尾崎士郎 ● 今東光 ● 海音寺潮五郎 ● 横溝正史
● 山本周五郎 ● 井上靖 ● 新田次郎 ● 柴田錬三郎 ● 五味康祐 ● 立原正秋
自分的には「父・乱歩を語る令息平井隆太郎」「夫・正史を語る横溝孝子未亡人」が目当てな訳で、オリジナル本も当時図書館から借りて読んではいたが、手軽な文庫なら・・・てな感じで、いそいそと購入。もっとも江戸川乱歩の分は最近『うつし世の乱歩』(06年)に収録されていたから(但し、文中の写真が未収録)、ここでは横溝孝子夫人語るところの横溝正史の回想話のみ感想を述べる。
横溝亮一も同様の事を言っているが、正史という人は家族からすると本当に手のかかる家長だったようで。上諏訪での闘病は誰もが知るところだが、この時期、孝子夫人も一年ほど体調を崩している。「鬼火」「蔵の中」「蝋人」「真珠郎」の鬼気迫る執筆には、その窮状も大いに影響があるという。晩年、映画『悪霊島』(81年)の感想を求めた角川春樹に対して正史はひとこと、「景色だけはいいね」。そりゃそうだろうなぁ。なんとか鑑賞に堪えられるのは77年の『悪魔の手毬唄』ぐらいまでで、『獄門島』から後の映画は原作の素晴らしさがまったく活かされてないもの。
最後の入院のヘビーな逸話といい、にこやかな好々爺のイメージしか知らない人には、孝子夫人の穏やかな口調の中に垣間見える正史の本当の顔を知ってもらえたら嬉しい。ところで平井隆太郎氏も横溝孝子夫人も未だにご健在なんだろうか。できればあとがきで近況を知らせて欲しかったな。
(銀) 平井隆太郎2015年12月逝去(94歳)。横溝孝子2011年11月逝去(105歳)。お二方とも長寿の人生を送られた。
本書の作家の中で、乱歩・正史の他に私が著書を所有しているのは柴田錬三郎と山本周五郎と子母澤寛。あとは海音寺潮五郎などをチョロっと読んだ程度か。子母澤寛に『鬼双紙』という怪奇小説の仙花本があって、これはお世話になっている落穂舎の古書目録でその存在を知り、ある時偶然安く見つけたので買って読んでみたら、時代ものの設定だが橘外男や大河内常平のような趣きがあった。他にも子母澤のこんな怪奇小説ってあるのかな?