映像化により、シリーズが長く続いたというだけで、その俳優を名探偵の適役と見なすのは疑問だ。すなわち明智小五郎=天知茂みたいな声が上がってくるけれど、小説の明智はあんなに脂ぎってないし、ビジュアルはもっと端正だし。
『古畑任三郎』の成功の影響で多くの人が誤解しているが、モジャモジャした髪・人懐っこくもあるがどこかメフィストフェレスな笑顔・癖のある歩き方・・・田村正和こそ過去演じた俳優の中で、最も明智小五郎のイメージにふさわしいでのはないか。田村本人がミステリアスなぶん、こういう名探偵役は非常によく似合う。
二十面相もの、というより殆どの江戸川乱歩長編の筋は幾つかのエピソードを積み重ねるスタイルであり、大きいテーマをもって冒頭からラストヘ向かって突き進む構成ではないから、二時間枠の映像でストーリー的に原作を熟知していない視聴者を引っ張っていくのはなかなか難しい。
とはいえ本作は「怪人二十面相」「少年探偵団」「妖怪博士」を部分的にコラージュしつつ、「猟奇の果」のテイストを本筋の核に取り込んでおり、頑張っているとは思う。登場人物は一部を除けば、ほぼ原作どおりの名で登場、時代設定を手抜きして現代へと変えず戦前のままにしているのも嬉しい。ビートたけしを敵役にするなら原作に忠実に撮った大人ものの長篇「魔術師」を是非見たかった。二十面相でなく奥村源造なら、たけしにピッタリだ。
豪華なキャステイングの中でも、特に叶美香はチョイ役とはいえ雰囲気がある。とにかく、宮沢りえ(文代)中尾明慶(小林芳雄)久本雅美(女中)の三人がダメなのが残念。やはり小林少年は丸刈り・詰襟であるべきで、相川泰役の三浦春馬にやらせたほうが好ましかった。本DVDは特典映像入り。初回放映当日の昼間だったと思うがTBSでこのドラマの番宣番組が流され、その時のメイキング+インタビュー集を再編集したものが収められている。久本の聞き手(?)による田村とたけしの撮影裏話は笑える。
このドラマはTBSが夏にやっていたスペシャルドラマ枠のひとつで、翌年には明石家さんま主演『さとうきび畑の唄』がオンエア。放送後には「なんでたけしが二十面相?」というネットの声がとにかく多かった。本作は再放送されたことはあるんだろうか?往年のたけしの実録ドラマ(大久保清/イエスの方舟/エボバの証人/金喜老)も地上波ではヤバいというなら、BSで再放送してくれれば絶対観るのに。
ついでに『古畑』にも触れておこう。2ndシーズンまではアラがあっても実によく出来ていた。3rdシーズンとの間に田村正和主演・三谷幸喜脚本でドラマ『総理と呼ばないで』を制作したものの、大衆が『古畑』を望んでいたのは明らかで、次シーズン再開まで三年しか空いていないにもかかわらず、このブランクの代償は意外と大きかった。
2ndシーズンからその傾向は見え始めていたのだが、笑いをとるにも今泉慎太郎(西村雅彦)のキャラが崩壊し過ぎで、3rdシーズン以降ミステリとしての完成度は急激に降下。毎回各シーズンが終わると「セリフが大変だからもうやらない」とコボしていた田村正和でさえ、のちに「(3rdシーズンは)謎解きの要素がちょっと薄くなっていたかも」と回想している。
更に向島巡査(小林隆)の苗字問題だったり、古畑たちが何度も不自然に海外旅行に行ったり、挙げ句の果てにシリーズ終了後の番外編『古畑中学生』で少年時代の古畑のドラマなんて作ってしまっては〈古畑という存在の謎〉が台無し。しかも古畑少年役はジャニタレで、子供の頃古畑と向島は知り合いだったとか(そもそも〝向島〟という苗字は元チーマーだった内田有紀似の嫁の実家に婿入りした時の名であって、彼の独身時の旧姓は‶東国原〟じゃなかったのか?)、脚本の設定がムチャクチャ。