2020年6月27日土曜日

『風間光枝探偵日記』木々高太郎/海野十三/大下宇陀児

2009年5月4日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創ミステリ叢書 第31巻
2007年10月発売



★★★★★     女探偵、七変化




◆ 海国日本の高揚を国民に意識させようとする戦前の雑誌『大洋』に連載された〝風間光枝探偵譚〟は海野十三木々高太郎大下宇陀児の三名による読切連作小説である。以下、カッコ内は各篇が収められた初刊本を示す。




「離婚の妻」木々高太郎(春陽堂文庫『風水渙』に収録)
「什器破壊業事件」海野十三(ラヂオ科学社『幽霊放送者』に収録)
「危女保護同盟」大下宇陀児(博文館 小説選集『思慕の樹』に収録)


「赤はぎ指紋の秘密」木々高太郎(春陽堂文庫『風水渙』に収録)
「盗聴犬」海野十三(ラヂオ科学社『幽霊放送者』に収録)
「慎重令嬢」大下宇陀児(博文館 小説選集『思慕の樹』に収録)


「金冠文字」木々高太郎(春陽堂文庫『風水渙』に収録)
「痣のある女」海野十三(ラヂオ科学社『幽霊放送者』に収録)
「虹と薔薇」大下宇陀児(博文館 小説選集『思慕の樹』に収録)
   



◆ 次に海野十三単独作である風間三千子シリーズ〝科学捕物帳〟四篇。掲載は『講談雑誌』。上記の風間光枝とこの風間三千子ものはどちらも昭和14年以降に発表されており、戦争の気配が次第に忍び寄ってきている。「探偵西へ飛ぶ!」は、皇国の為に命を懸けたふたりの探偵が敵地にて最期の時を迎えたとしか思えないようなエンディング。



「鬼仏堂事件」(博文館『英本土上陸戦の前夜』に収録)
「人間天狗事件」(成武堂『空中漂流一週間』に収録)
「恐怖の廊下事件」(   〃   )
「探偵西へ飛ぶ!」(   〃   )
   


◆ 最後に、これも海野十三によって戦後発表された〝蜂矢風子探偵簿〟編。掲載誌は『宝石』だが、「幽霊妻」だけは当初「幽霊妻事件」というタイトルで雑誌『物語』に掲載。



「沈香事件」(高志書房『怪盗女王蜂』に収録)
「妻の艶書」(   〃   )
「幽霊妻」(世間書房『ネオン横町殺人事件』に収録)
   


以上、中には普段コミカルな味など出さない木々の、海野っぽくて剽軽なシーンが見られる作があったり、そのの最も代表的な探偵・帆村荘六がゲスト出演する作もある。過去には個々の単行本に分散していたり未刊だったものをコンパイルした好企画だった。

 

 

 

(銀) 大下宇陀児の風間光枝もの三篇を本書の解題では単行本初収録と書いているが、実は『思慕の樹』という大下の昭和17年の著書に「風間光枝の事件」として収録されている。たぶんこの本は過去の大下宇陀児著書目録に載っていなかったので、横井司は単行本未収録だと思ってしまったのだろう。『思慕の樹』だけでなく木々の初刊本にしても、近年は古書市場で見かけることが無くなった。古書に拘ってそれらを探すとなると結構入手が難しい本がある。内容はさておき、私だけかもしれないけれど、論創ミステリ叢書の中で出してくれて嬉しかった度合でいえば、かなり上位にランクされる巻だ。