かなり前に、「探偵小説の初出挿絵を手掛けた画家を軸とするアンソロジーが欲しい」と大手出版社の文庫本に対するレビューにて書いた事がある。皓星社はあの『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』こそ出したけれども、特に文学系に強い出版社ではない。そんな皓星社がこのように挿絵をメインにする本を出してくれたのは嬉しいが、こうしたニッチなアイディアをプレゼンしても大手は具現化する気など200%無く、マイナー出版社でしか成立しないのが苦々しい。
今回の挿絵叢書は大正~昭和期の「広義の探偵小説」から作品を選ぶというコンセプトを据えている。その一番手の画家として竹中英太郎が選ばれたのには、誰一人異論はなかろう。「怪奇」をテーマとした第一巻には七篇が収められ、うち三篇は夢野久作「空を飛ぶパラソル」「けむりを吐かぬ煙突」、残る「押絵の奇蹟」だけは文章の量に対して挿絵の数が少ないので、挿絵は全部採りつつも小説は梗概のみの収録。
七篇中六篇が『新青年』からのセレクトなのはチョットありきたり。せっかく待望の企画だから底本とする雑誌の範囲をもっと手広く見てくれないか?この叢書とて〈論創ミステリ叢書〉読者のような一部の濃い人達が先頭切って御得意様になってくれるのは明らかなのだから、なるべく小説が単行本未収録なもの、それでいて挿絵の出来が良いものを選んでほしいと思ったのだが、実際作品を選ぶとなると制約も多そうで、案外これは私達読者が想像する以上に手のかかる作業なのかもしれない。
版元からしたら夢野久作のような、ある程度のメジャー・クオリティを押さえてないと商業的に不安なのだろうな・・・と、これは読み終わった後の感想。
(銀) 文学系は強くないと書いたが、皓星社はこの〈挿絵叢書〉と前後して〈シリーズ紙礫〉というアンソロジー企画も開始。〈シリーズ紙礫〉のコンセプトを版元は下記のようにアピールしている。
➤ 「戦中戦後の闇市、終戦直後の夜の町で米兵の袖を引いた街娼、被差別部落、人型の性具・ダッチワイフ・・・。明治から平成まで、書き手の有名無名を問わず、テーマに合う作品を縦横無尽に採録(中略)ちょっと不穏なこのシリーズに、どうぞお付き合いください。