2025年5月4日日曜日

映画『Old San Francisco〈人肉の桑港〉』(1927)

NEW !

Warner Archive Collection   DVD-R
2009年9月発売



★★★  DVD-Rじゃ安っぽいぜよ




WarnerWarner Archive Collectionの名のもとクラシック・ムーヴィーを多数ソフト化しているのだが、購入に際し注意を要するカテゴリーもある。
以前記事にした『King Kong〈キング・コング〉』(☜)はじめ、ブルーレイで発売されている作品は問題ない。しかしブルーレイで発売されていない作品に使われているディスクはファクトリー・プレスでないDVD-R、つまりブートレグに毛が生えたレベルの品質なのだ。

 

 

DVD-R仕様にされた古い映画は殆どの場合、手間暇かけてレストアすることも無く、単純にトランスファーしただけなのだろう。あちらさんも商売だし、そこまで売れそうにないマイナー作品まで十全に修復するとなると、かかったコストをリクープする収益が見込めなくて、二の足を踏む気持ちは理解できる。けど西新宿の洋楽ブート業者じゃあるまいし、天下のWarnerDVD-Rはないよな。

 

 

本日取り上げる『Old San Francisco』もDVD-R。特典コンテンツなど皆無。
日本のDVDプレーヤーで普通に再生可能。音声はヴォリュームを上げて視聴する必要あり。台詞の音声は入っておらず、英語字幕の有無を気にせずともよい反面、目に負担がかかるほど荒れた画質ではないにせよ、もう心持ちノイズや揺れは除去してくれなくちゃ。ネット情報によれば、本盤リリースの為か定かではないものの、過去にこの映画、一応修復作業を行っているらしい。それホント?






ドロレス・ヴァスケス嬢(主演/ドロレス・コステロ)




【 ストーリー 】

18世紀。海を越え新大陸に渡ったスペインの貴族エンリケ・デ・サラノ・イ・ヴァスケスはのちにサンフランシスコと命名される天然の良港を発見。その地に根を下ろしたヴァスケスの一族は地主として代々繁栄するも1906年の今では斜陽期にあり、当主ヘルナンデスは牧場と僅かな土地を守るのが精一杯。

 

それに対し、チャイナタウンの実権を握る謎の怪人物クリス・バックウェルは弁護士マイケル・ブランドンと結託、ヴァスケス家の土地買収を画策している。甥のテレンス・オショーネシーを伴い交渉のためヴァスケス家を訪れたブランドンだが、誇り高きヘルナンデス老は耳を貸すはずもなく一蹴。皮肉にも好青年のテレンスはヘルナンデスの孫娘ドロレス・ヴァスケスに一目惚れしてしまい、ドロレスもテレンスを憎からず思う。

 

ところがバックウェルもドロレスの美しさを知り、ブランドンとは別に、さも善人らしくヴァスケス家に近付く。隙を見てドロレスを手込めにしようと迫るバックウェル。彼女の貞操の危機はテレンスによって救われる。激怒したバックウェルは態度を一変、強硬手段の脅しに出たところヘルナンデスは心臓麻痺を起こして急死。悲しみに暮れるドロレスは憎いバックウェルへの復讐を神に誓う。




アンナ・メイ・ウォン(Anna May Wong)の役どころはクリス・バックウェルの手下。
こういう中国系の妖婦みたいな役ばかり求められ、
彼女はハリウッドに不満を抱き始める。




白人として君臨するクリス・バックウェルだが、本当は中国人(本作しかり、どうも当時のアメリカ人は中国人とモンゴル人を混同しているフシがある)。内心ではバックウェルを嫌悪しつつ表向き服従の態度を示すチャイナタウンの中国系住民(上山草人も出演)。バックウェルの屋敷地下は魔窟になっていて、そこでのみ彼は素顔の中国人に戻ることができる。またバックウェルの弟は知能の低い奇形の小人ゆえ、地下室の檻に入れられている。悪役のバックウェルを演じるワーナー・オーランドはどことなくハナ肇が入った風貌ではあるけど、白人モードの時のバックウェルはわりかしダンディー。流石フー・マンチュー博士役でスターになるだけのことはある。




 
クリス・バックウェル(画像左/通常の白人モード、画像右/中国人モード)




小人(バックウェルの弟)
演じているのはアンジェロ・ロシット。
彼の存在によって作品に怪奇性が加わった。




 





公開時、客の入りは良かったのだが、ロレス嬢がレイプ未遂に遭い売春婦として売り飛ばされそうになるため、「何て猥褻な映画なんだ!」などと批判の声があったという。さもありなん。まあ邦題に「人肉の桑港」と付けるほどエログロでもないけどね。ヘルナンデスが死ぬ迄の物語前半は大時代的なアトモスフィアーに包まれ退屈だけども、途中からバックウェルの魔窟が話の中心となり、アンナ・メイ・ウォンの出番もグッと増えて面白くなる。急転直下の結末でさえ、ある意味〝見もの〟かも。




後半部分だけなら、これまで紹介してきたアンナ出演映画の中でもかなり当Blogの趣味に合っている。それだけにキチンとレストアせずDVD-Rでリリースされたのが惜しい。通常、サイレント映画はデジタルリマスター時に当時のサウンドトラックを外して、現代の音楽家が新たにダヴィングし直すケースが多い。このディスクは当時のサウンドトラックがそのまま使用されており、その点は良かった。






(銀) 100点中80点ぐらいの画質をキープし、ブルーレイは無理でも、せめてプレスDVDだったら、全体評価★3つ止まりなんてことは絶対ない。アンナ以外の出演者で印象に残る女優は滅多にいないが、本作後半のドロレス・コステロはちょっとなまめかしく思えた。