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若くして父の遺産を相続し、容貌も良いけれどオトコを見極める目がないのが欠点の主人公イヴ・ニール。彼女は魅力があって頭は切れるが問題の多い前の夫ネッド・アトウッドと別れ、ローズ家の息子で銀行勤めのトビイを知る。
イヴはトビイと婚約しローズ家でも信頼を得ていたが、ある晩イヴの部屋に離婚した筈のネッドが現れる。新しい幸福を失いたくないイヴと、不法侵入をしておきながら「元鞘に戻れ」と迫るネッドが揉めていたところ、ふたりは目の前の邸の窓辺にローズ家の長/サー・モーリスの異変を目撃し・・・。
その後いろいろあってイヴはサー・モーリス殺しの容疑をかけられ孤立無援の立場に追い込まれるのだが、例によってカーのあくどいトリックが殺人目撃シーンにおける細かいセリフのやりとりに仕込まれており、そこの部分で煙幕を張る演出は評価できる。運悪く日本の超有名探偵作家の 某作品を先に読んでなければフーダニットの面でもハウダニットの面でも「おお~」とビックリできるかもしれない。
まず、ひとつめ。いくら近所だからって、別々の家族が住んでいる邸の×が(一応、探偵小説のマナーとして伏せておく)共通して使えるなんて、1940年代のフランスでは普通のことだったのかもしれんけど、私はどうしても首を傾げてしまう。
ふたつめ。ネッドとトビイ、最初は対照的に思えた男ども。イヴにからむ場面が全くスマートに非ずクドい。カーがドラマを盛り上げたいというか笑いをとりたいのかもしれないが、この二人の言うことが鬱陶しくてトリック以外の物語の部分に少しかったるさを覚えた。いつの世であれしつこい男はみっともない。
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確かに人間のちょっとした隙を衝くトリックそのものは巧妙で面白い。しかし、本文にも書いたとおりヒロインをとりまく二人の男の言動がいけすかないし、人より少し疑り深い自分としてはトリックに関わる根幹、すなわち「暗示にかかりやすい」という部分が、安易とまでは言わないけれど、やや都合が良すぎるかも。